駅からほど近く、気軽に立ち寄れるエリアに史跡が集まっているのが鎌倉の魅力です。しかし、いつでも行けると思うとなかなか行かないのが人の常。鎌倉好きがこぞって勧める妙本寺も門前だけは頻繁に通るものの、参拝したのは今回がはじめてでした。さてさてこのお寺、入ってみると敷地が広大でかなり奥まった所に境内があります。桜や海棠(かいどう)が咲き乱れ、木造建築の大きなお堂が美しいのですが、私がいちばん好きになったのは長い参道でした。駅から5分ちょっとの場所にありながら、この静寂。森がうっそうと茂って、鶯や山鳥の鳴き声が響きわたり、まるで深い山の中を歩いているようです。
妙本寺一帯は比企ヶ谷(ひきがやつ)と呼ばれており、鎌倉時代には、有力御家人比企能員(ひきよしかず)の屋敷がありました。比企一族は将軍家の乳母や側室を輩出し、外戚として勢力を持っていたため、頼朝の死後、これを危険視した北条氏と対立を深め、二代将軍・頼家(よりいえ)の後継者問題を口実に攻め滅ぼされました。その後、能員の末子、比企能本(よしもと)が一族を弔うために建立したのがこの妙本寺です。様々な悲劇的歴史を持つお寺ですが、境内に住む丸々とした猫ちゃんたちが、ご住職さながらに闊歩しているのに癒されます。
(リラ自然音楽研究所から徒歩約18分。鎌倉駅から約8分)
<道案内>
若宮大路を、海を背にして鎌倉駅方向に進み「下馬」交差点を右折、踏切を渡り大町商店街を直進します。美味しいものがいっぱいの和菓子屋さん『大くに(麩饅頭が有名ですが、道明寺桜餅や豆大福も◎です)』のある「大町四ツ角」を左折。辻説法通り(小町大路)を直進し、「夷堂橋」の手前、魚七商店を右折すると門が見えます。往時の頼朝も政子を伴い、度々乳母・比企尼を訪ねたとか。夷堂橋も渡ったかもしれませんね。
2010年5月号掲載