今小路の御成小学校近くに、通るたび気になるとても小さな橋があります。欄干の向こうには水路のような細い流れが見えますが、これは滑川支流の佐助川。流れは住宅の間に消え、暗渠もあって辿るのが難しい川です。身を乗り出して覗き込めば、鬱蒼とした木々が茂り、微かにせせらぎも聞こえます。水路は道路と違って、水や風の他、何か特別のものが流れていることを感じます。道路が舗装され、近代家屋で街並が変っても、川や橋にはどこか昔の風情が残っている気がして興味はつきません。この「裁許橋(さいきょばし)」は鎌倉十橋(かまくらじっきょう)に数えられる歴史ある橋で、訴訟を裁許(判決)する問注所(もんちゅうじょ)に近かったことが名前の由来とか。また別名を西行橋(さいぎょうばし)と言い、「橋の上で西行法師が頼朝公に名を尋ねられた」からとか、「よくこの橋を渡った」から等、名前の由来は諸説あります。謎の多い西行と鎌倉の接点は意外に身近な所にありました。奥州に赴く途中で鎌倉に立ち寄った西行ですが、吾妻鏡によれば、鶴岡八幡宮の鳥居のあたりを怪しい老僧が徘徊しているのを御家人が呼びとめ、西行と知った頼朝が御所に招いて会見したそうです。双方に思惑があったのかも知れませんが、西行が頼朝に弓馬の道を説いたことが、鶴岡八幡宮の流鏑馬(やぶさめ)発祥のきっかけとなったのは確かなようです。
(リラ自然音楽研究所から徒歩約11分。鎌倉駅から約5分)
<道案内>
鎌倉駅西口を降りて紀ノ国屋方面に直進し、「市役所前交差点」を左折。御成小学校の立派な門を右手に見ながら直進します。「御成小学校前」T字路を過ぎ、図書館に行く道を越えてすぐ。右側に大きい欄干が、左側に小さな欄干があります。目立たない橋です。
2010年8月号掲載